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木村喜由のマーケットインサイト 2012年1月号

悩ましい1-3月、相場の転換日柄が集中

ドル円が16 年半の転換日柄、一方米国株は弱気相場入りへ
本稿執筆の1月9日時点で、円ユーロは11 年ぶりの安値となる97円台半ばと
なり、ユーロ安が進んでいる。これは2-4 月にイタリア国債の借り換え集中が接
近する中で、4 月にフランス大統領選挙が実施され、ギリシャ危機以来の欧州通貨
不安対策の旗振り役サルコジ大統領の再選に黄信号が灯っているためである。
しかし、冷静に見れば昨年末にECB が実施した欧州金融機関に対する実質無制
限の3年物資金供給によって、イタリアの本格危機は回避される公算が強い。硬骨
漢で知られるドラギECB 総裁の方針変更は重要だ。借り換え額は大きいが追加純
増額はさほどでもなく、利ザヤは極端に拡大している。イタリア新政府の陣容も、
財政再建案も評価は悪くない。
チャート的には、今月はドルユーロの転換日柄である18-20 ヶ月に当たって
いる。前回安値は2010 年6 月、その前は08 年10 月。一方高値は08 年4 月、
09 年11 月、11 年4 月である。底入れ後は数ヶ月リバウンドしよう。欧州の国
債入札はほぼ毎日のように実施されているが、さほどの混乱もなく消化されている。
投機的な動きと市場心理が当面のクライマックスに向かっていると理解したい。
ドル円の場合は、はるかに重要な16 年半サイクルの安値日柄の中心がこの2
月に到来する(前回は95 年4 月)。介入があったとはいえ過去半年は77 円付近で
横ばいになっており、すでに11 月の75 円割れで歴史的安値を付けてしまってい
る可能性もある。日本の原発停止に伴う輸入燃料増と貿易収支赤字化、日本企業に
よる海外M&A の活発化など為替需給の根底が変化しつつあり、ダントツに悪い財
政状態を考え合わせると円大暴落の危険性さえなしとしない。
政府は無策だし、国民も政府にない袖を振るようおねだりするばかりで、根本的
な財政再建など期待できない。人口減が加速する中で内需にも期待できないため、
企業は冷静に円高を利用して国際戦略を強化している。昨年の日本発の海外M&A
は63%増の5 兆5 千億円に上ったほか、上場企業の海外利益依存度も一段と高
まっている。投資成果を追求するなら国内よりも海外を重視すべきである。
懸念材料は米国株式。メリマン氏によると牡牛座0-7 度でNY ダウが高値を打
った後、株価は長期の弱気相場入りもしくは歴史的大暴落を演じており、3 月前後
から下げに転じると指摘している。氏は昨年5 月の高値打ちとその後の下落、さ
らに10 月以降の反騰を的中させてきている。

方向感は交錯も、日本株は買い場探しと見るべき

TOPIX の高値は07 年2 月の1817。その後の安値は09 年3 月の700 と
11 年11 月の706 である。高値当時のドル円は122 円。現在は77 円だから、
ドルベースでは高値より36%安い水準。今期の経常利益の水準はピーク時の
30%余り減だが、予想PER は13 倍、キャッシュフロー倍率は5 倍以下となっ
ており、割安感は強い。
日本株の場合、歴史的に安値は8-10 年周期、および約3 年程度の周期で迎え
ることが多かったが、03 年3 月安値、09 年3 月安値からカウントするとまさに
この1-3 月は安値周期の中心に当たる。もし先に書いたように為替相場の転換点
がこの時期に迎えた場合、株価や景気を圧迫してきた円高の終了は大幅な資金シフ
トを魔なくはずで、その後日本株は相当長期の上昇トレンドに転じる公算が強いと
想定される。
しかし反面、米国株が弱気相場入りするという同等の信頼性を持つ見方が存在す
る。米国株が弱い中で日本株が堅調な動きを続けるとは考えにくいため、どちらを
信じて行動したらよいか判然としないというのが正直なところだ。
判らないときは「相場は相場に聞け」である。5-13 週程度の移動平均線の向き、
あるいは中期の上値・下値抵抗線の突破を確認し、その方向に追随するのである。
うまく行かなければ撤退する。それが最も怪我の少ない方法であり、成功した場合
には十分利益も上がる。
最も単純なのはドル円相場で、07 年高値から引いた上値抵抗線(10 年4 月の
94.7 円、昨年4 月の85.5 円、10 月の79.5 円をブロック)を明確に突き抜け
80 円を付けたならかなりの確度でトレンド転換と推定できる。株式には強気とな
るべきである。それまでは、安値拾いか、小幅利食いを狙う短期売買に徹するのが
安全である。
現時点で順当な株式戦略としては、下値リスクは限定的と見られるので、半分は
年率2.5%以上の配当利回りが見込める安定的優良株、半分は円安に振れた場合の
メリットが大きそうな海外売り上げ依存度の高い銘柄に置くのがよいだろう。後者
は営業利益改善に加え、財務諸表の資本の部の外貨換算調整勘定の赤字が減少する
ことで、純資産も増加して、ダブルで株価上昇の圧力が加わるからだ。こうした銘
柄の代表は、大手総合商社、自動車や電機、精密、海運などのセクターである。特
に総合商社は利回りも高く予想PER も5-6 倍と低いので、よい買い場であろう。
(了)