木村輝久「きらめき」 2012年1月号
新春雑感
新年おめでとうございます。謹んで新春のお喜びを申上げます。今年もどうぞ宜しく
お願い申し上げます。昨年は、3 月11 日の東日本大震災という大事件に代表される非常
に厳しい1 年でしたが、今年は是非とも平穏な年であって欲しいと願うのは、誰しも同
じだと思います。しかしながら地球規模で見た場合、必ずしも楽観が許されない不安定
な年になりそうな気がしてなりません。
最初に挙げたいのが、地政学的に見て、昨年暮れに急逝した北朝鮮の金正日総書記の
後継者となった金正恩氏が、果たして独裁国家の統率者として大丈夫かという不安感を
払拭できないことです。20 年間に亘って全体主義体制のカリスマ指導者として君臨した
金正日氏の後継者として機能するためには、年齢、経歴などからして強力な補佐体制が
不可欠ですが、これが権力闘争に発展するリスクを心配します。1970 年の拉致事件、1980
年代末の大韓航空爆破事件、日本近海での不審船の往航、テポドン発射事件、最近では
黄海で韓国哨戒艦を魚雷で撃沈した事件、韓国延坪島への突然の砲撃など、何が起きて
も不思議ではないという不安がつきまといます。さらに気懸かりなのは核開発のコント
ロールです。核施設を巡ってアメリカと中国の軍事衝突を懸念する英国フィナンシャ
ル・タイムズ紙の報道もあります。核兵器問題では、イランに対する欧米諸国の経済制
裁に対抗するため、イランがペルシャ湾の入り口に当たるホルムズ海峡の封鎖をちらつ
かせているのも気掛かりです。仮にそんなことになれば、原油価格の高騰は勿論のこと、
我が国の輸入原油の70%を占めるサウジ、アラブ首長国連邦、カタール、クエートなど
からの輸入は完全にお手上げです。
次に、主要国のトップ人事も今年の大きな関心事です。
まず経済摩擦の激化が懸念されるアメリカと中国。アメリカでは年明けから4 年に1
度の大統領選挙に向けての動きが活発化します。現職オバマ大統領の昨年末時点での支
持率は49%で、不支持率48%を約半年振りに辛うじて上回ったとはいうものの、最近8
人の歴代大統領の中では最低です。野党の共和党にこれという強力な対立候補は現れて
いませんが、雇用問題、格差拡大問題など難問を抱えて、現在のところ、再選確実とは
言い難い状況です。
中国は、秋に開催される5 年に1 度の党大会で、胡錦涛国家主席に代わって最高指導
者に習近平副首席の就任が内定していますが、同時に党中央政治局常務委員の大幅な若
返りが注目されます。人民軍を完全にコントロールできる「中央」誕生を期待したいと
ころですが、ここでも太子党、共青団などの派閥争いがあり予断を許さないように思わ
れます。
ロシアの大統領選挙も今年の3 月です。親日派のプーチン首相の大統領復帰が確実視
されていますが、昨年末の下院選挙で政権与党である統一ロシアによる不正行為が発覚、
プーチン体制に揺るぎが囁かれ始めていることから、日本に対して強硬姿勢に転ずる可
能性もあります。欧州では昨年、国家財政債務危機のため、ギリシャ、ポルトガル、イ
タリア、スペインと政権交代が続きましたが、4 月に行われるフランスの大統領選挙で
はサルコジ氏の再選可否が注目されます。さらに、台湾の総統選挙が今月、12 月には韓
国の大統領選挙が控えています。
昨年1月、チュニジアに端を発した独裁体制の終焉は、やがてエジプト、リビアへと
波及し「アラブの春」と呼ばれるに至りましたが、中東諸国の専制政治の崩壊が何れも
内部からの崩壊であることを考えますと、地球規模での地殻変動が今年も続くと見るべ
きです。さしあたりサウジアラビアのアブドラ王朝の存続を危惧する声もあります。そ
の意味では、中国や北朝鮮もその可能性がゼロとは言えません。
年初来のユーロの値下がりに象徴されるように、ヨーロッパの金融不安は払拭される
には至っていませんが、昨年12 月のEU サミットの合意もあり、最悪の事態が回避され
る目途はついたと考えています。
当面最大の関心はやはり国内の政治動向です。筆者は永年に亘った自民党政治からの
脱却に期待した一人ですが、民主党の余りの無能ぶりにはホトホト愛想がつきかけてい
ます。日米間で沖縄普天間基地の名護市辺野古への移転案が固まっていたにも拘らず、
鳩山氏がおよそ政治家としては考えられない勉強不足、思いつき発言で、「県外移転」な
どと言って、寝た子を起こすような大失態を演じた事に始まり、同じように菅総理の安
直な「脱原子力」宣言などトップによる不用意な発言の積み重ねが、国際的にどれだけ
我が国のガバナンスの信頼を損なっていることでしょう。最近では沖縄県民の神経を逆
撫でする沖縄防衛局長の無神経な発言問題で県民の苛立ちが昂じている最中、普天間基
地を辺野古に移すための環境評価書を沖縄防衛局から民間の運送業者を通じて配送させ
るという無神経ぶり、本来なら大臣か次官クラスが携えて直接知事に手渡すぐらいの配
慮があって然るべきだと思います。さらに、金日成死去以来17 年ぶりの国営中央TV に
よる特別放送の日時が予告されていたにも拘らず、野田総理が放送開始時刻直前に街頭
演説のために外出し、途中で急遽官邸に引き返すという不様さなど、政治家としての緊
張感の欠如の具体例は枚挙にいとまがないほどです。
さしあたりは消費税増税を含む「社会保障と税制の一体改革」法案を巡る与野党の、
そして皮肉なことに与党民主党内部の攻防が注目されます。野田首相は『ネバーギブア
ップ』と不退転の決意を表明、1 月11 日以降に、郵政改革、議員定数削減、公務員給与
引き下げを含めた包括協議を、野党に対して呼びかける段取りですが、自民党の谷垣総
裁は「国民の信を問うのが先だ」と頑なな姿勢をとり続けています。但し、自民党内部
には協議を拒み続けることに反対する動きもあり波乱含みです。一方で民主党内部には、
与野党協議で合意できない場合、単独でも3 月末までに法案を提出する考えもあるよう
で、ここ暫らくは微妙な駆け引きが続きそうです。場合によっては、野田総理の切り札
とされる「話し合い解散」に踏み切ることも考えられます。
いずれにせよ、問題の多い年明けですが、せめて昨年のような大規模な自然災害のな
い平穏な年であることを祈ってやみません。 (以上)