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木村喜由のマーケットインサイト 2012年2月号

転機が接近、柔軟に流れに付け

上下どちらにも動く公算

前回のタイトルは「悩ましい1-3 月、相場の転換日柄が集中」というもの、
また小見出しには「ドル円が16 年半の転換日柄、一方米国株は弱気相場入り
へ」と書いた。1か月後の現在、日経225 は600 円高、ドル円は77.5 円に1
円弱上昇、NY ダウは500 ドル高となりリーマンショック後の最高水準にある。
総じて投資家にとっては明るい環境だが、筆者の気分や見方に変化はない。
相場が堅調に推移したのは、前回書いたとおり、昨年末にECB が実施した欧
州金融機関に対する実質無制限の3年物資金供給である。これにより金融機関は
値下がりしていたスペイン、イタリア国債を大量に買ったため「全体としての」
欧州不安は大きく後退、ギリシャの債務再編問題も無事通過の見方も追い風とな
り、ユーロ円は97 円台から103 円付近まで急反発、中でもイタリア株は1 か
月で15.7%も上昇した。これが投資家のリスク・オン姿勢を後押ししたため、相
場が上昇したのである。
当面の問題は15 日の欧州財務相会合である。ギリシャ議会の財政再建案議決
を受けて追加的財政支援の可否を決めるのだが、ギリシャは4 月に選挙を控えて
いるため、国民の反発が強い財政緊縮策には腰が引けている印象がある。これま
での再建計画でも3 か月毎の監視でも計画未達が続き、実行力には疑問がある。
支援決定となれば3 月20 日期限の国債償還に目処がつき、一時的に相場上昇
となろうが、それで当面の好材料出尽くしとなる恐れが強い。波乱の種はCDS
である。主要金融機関とは債務の70%を棒引きする方向で交渉を行い、「秩序
あるデフォルト」すなわち債務保険であるCDS 支払いを免れる方向で交渉が進
んでいるようだが、交渉不調になったりCDS 保有者が保険請求権行使に動くな
ど、一歩間違えれば一気に不安が再燃しかねない。
逆に、ギリシャの破綻とユーロ離脱を歓迎する声も少なくない。ギリシャ財政
の甘さと国民の政府依存の強さは突出しており、そもそも無理にユーロに留めよ
うとしたことが混乱の原因というものである。他にもポルトガル、アイルランド
といった問題国はあるが、GDP 規模は小さく、ユーロが十分な基礎体力のある健
全財政のだけ国で構成されるようになれば、ユーロに対する認識も相場状況も大
きく一変しよう。

予想以上に厳しかった10-12 月期決算

前回指摘したとおり、1 月はドルユーロの転換日柄18-20 ヶ月で当面の安値
となった公算が強い。この通りなら底入れ後は数ヶ月リバウンドしよう。仮にギリ
シャがデフォルトとなってもこの見方に変化はない。投機的な動きと市場心理がク
ライマックスを通過した後は、その反省とポジション調整の動きから意外なほど大
幅な反動が起こることがある。一方、ドル円は2 月が16 年半サイクルの安値日
柄の中心であるが、現在まで11 月の75 円割れを更新しておらず、すでに歴史的
安値を付けてしまっている可能性もある。昨年の貿易収支が31 年ぶりに赤字とな
ったことから、最近のメディアや識者の論調は、いつ日本の経常黒字が消滅するか、
その場合に為替相場や日本の国債利回りがどう変化するかに集中しつつある。
現在の経済ファンダメンタルズの9 割以上が将来の円安を示唆している。急速
に進む少子高齢化と債務・GDP 比率で見て悪化するばかりの財政構造、原発再稼
動に反対し自らエネルギー安定供給を阻止しようとする枝野経産相をはじめとする
政治家やメディアの論調である。日本の輸出はほとんど工業製品であるが、高値で
不安定な電力供給はメーカーの安定操業を不可能にする。海外シフトや物価上昇に
つながるはずであり、やや遅れて輸出は減り輸入が増えるであろう。
米国株に対しては弱気を主張する。1870 年以降の株価を検証したメリマン氏
は、木星が牡牛座0-7 度の範囲内でNY ダウが高値を打った後、株価は長期の弱
気相場入りもしくは歴史的大暴落を演じており、3 月前後から下げに転じると指摘
しているからだ。米国の場合、ついに堪りかねたバーナンキ氏も.議会証言で述べ
たように財政再建が待ったなしである。
米国株は割安という評価があるが、今の長期金利や企業収益が「正しい」「サス
テナブル」という前提に基づく。筆者は現在はまぐれか追い風参考記録程度であり、
どちらもネガティブな方向につまり金利は上がり業績は顕著に悪化すると思う。メ
リマン氏のように、2015 年前後にダウが6000 ドル前後に下がるとまでは思っ
ていないが、高額所得者減税が終わる来年は1 万ドル以上は維持できまい。
悩ましいのは日本株への見方である。円安トレンドへの転換は間違いなく好材料
であるが、その理由が日本のファンダメンタルズ悪化の認識が広まったからであれ
ば、そう喜べない。米国の金融緩和の方向性が変わればドルは上がるが米国株は下
がる。方向感は錯綜しており、現時点で見通しは語れない。また、直近の決算状況
は予想を大きく下回っており、失望を禁じえない。少なくとも日経225 の9000
円付近ではPER が割安か、1-3 月期以降の持ち直しが展望できる企業以外、買
うべきではない。 (了)