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木村喜由のマーケットインサイト 2012年4月号

下振れ警戒、軽いポジションで短期売買中心に

例年5 月、11 月にかけては下振れしやすい

前回は「1 万円大台は分不相応」と書き、反落への警戒を唱えた。そしてそれ
は実現した。09 年11 月のドバイショックと、その後の日銀の抜き打ち的金融
緩和からの株式とドル円の急反発のパターンが、今回の日銀緩和をきっかけとし
た急騰と瓜二つだったからである。背後で動いていたのはヘッジファンド。金融
緩和の追い風に乗って、思い切り買い上げた。ファンダメンタルズの変化で説明
できないほどの急激な上げであり、動きが止まれば反対売買に動くのは必至だっ
たので、長期のトレンドが崩れるほどでないとしても、一度は大きな反落がある
と見て、警戒を訴えたのである。
ドバイショック後のドル円の上昇率が約11%、日経225 の上昇率は22%だ
ったが、今回の上げ相場でももほとんど同じ比率で上昇した。1-2 か月の動き
としてはほぼ限界であり、欧州や中国の景気にかげりが見え、業績面の支援も乏
しく、原発再稼動見送りによる電力供給の不安が残る中では、反落は仕方のない
ことである。
これまで4-5 月の株式市場は堅調なことが多かったとして楽観論を唱える向
きが多かったが、筆者は敢然と反論した。そうなったケースはすべて2-3 月に
厳しい局面を迎えており、その反動として上がった面が強かったのである。今回
は逆に記録的な急騰をした直後であり、そのような新規買いは期待できない、特
に国内の年金資金は、受給者が増えたため資金が純減しており、むしろ高値圏で
は売り圧力になると想定したからである。うかつに誤った「世間の常識」に従っ
て4-6 月は上昇すると考えた投資家は災難であった。
短期的なことを言えば、来週から始まる決算発表シーズンは、圧倒的に発表直
後に売られる銘柄が多いと思われる。結果がよくても本物のサプライズでない限
り、一瞬は上がるがすぐに材料出尽くしで当面見送りと解釈され、悪ければ失望
売りが確実である。何よりも、例年5 月と11 月は、大多数のヘッジファンドの
決算月に当たり、それまでの強気トレンドを生み出したポジションの撤収タイミ
ングになりやすい。その結果、多くの場合株式市場は多少なりとも下落している。
逆に言えば、突っ込み買い、あるいは決算内容がよかったのに売られた銘柄を
安値で拾うチャンスである。相場の位置にもよるが、しっかり研究して追いかけ
たい銘柄を持つ投資家は、準備を怠らないよう促したい。

実質減益になりそうな米国企業

10 月初旬以来堅調な上昇トレンドを続けていた米国株価が、ここに来て調整
色を強めている。理由はゴマンとあるが、簡単に言えば金融緩和と財政刺激で無
理やり好業績、好需給を演出してきたものが、ついに頓挫しそうな雲行きになっ
たからである。
これからピークを迎える米国企業の1Q(1-3 月)決算は市場予想を上回るもの
が多いだろう。アナリストたちが発表前に予想を引き下げているためである。毎
回そうなのである。その理由は、彼らは一年後のことについては楽観的な数字を
上げているのだが、結果が自分の予想に届かなかった場合に顧客や営業部隊から
批判され、首になるのを予防するため、直近期については発表前に下方修正する
のである。だから市場予想を上回ったといっても褒められたことではない。
そういう点を割り引いても、絶好調のアップルを除外すると米国企業全体がこ
の1Q に減益になりそうという事実は重大である。ドル安、大幅な財政刺激、超
金融緩和の支援を受けてもその程度なのである。
リード役のアップルにしても、筆者のアナリスト経験に照らして断言するが、
そう遠くない将来に大きく株価が下落するだろう。デジカメにしてもケータイに
しても、ポータブル電子機器は価格が手頃なこともあって普及期には供給力の強
いメーカーが爆発的に業績を伸ばすが、普及一巡後はコモデティー化、つまり
華々しさもない当たり前の商品となって競合も増え、利益率は激減する。この製
品ライフサイクルを乗り越えた企業は存在しない。
自らの戦場を変えることにより、衰退の道から逃れた会社は、大型電算機メー
カーからソフト・サポート重点に切り替えたIBM、家電から重電と金融に乗り換
えたGE など、米国にはいくつもある。だが日本には少ない。創業の理念を大事
にしすぎた会社が、莫大な損失を計上し危機に陥る。いずれ復活の芽はあるが、
残念ながら現時点では日本の家電専業大手は全滅したと言わざるを得ない。
うまく行っていたところほど、裏目が出たときの打撃が大きいのは、歴史の教
訓である。高転びに転ぶ。東電も野村證券もその例だろう。投資家の職務、利益
は、有卦に入っている企業と一緒になって浮かれることではない。逆に、それら
に背を向け、現在失意のどん底にある企業の復活の決意に賭けることだろう。
当面、株式市場では過剰期待の剥落で冴えない展開が予想され、保有株の多い
向きはヘッジ手段が必須である。一方、待機資金を持っていた向きにはチャンス
が到来してきたといえる。ただし本格反騰はしばらく先のことなので、軽めのポ
ジションで押し目買い、吹き値売りで対処すべきだろう。(了)