720142月

木村喜由のマーケットインサイト 2012年5月号

株価は割安、大手商社株は超割安

ギリシャ危機はすでに織り込まれている、下げは季節要因と投機筋が原因

連休明けの週末は日経225 の9000 円大台割れで終了した。過去6 週間で
12%の下落である。この間、日本では事故や異常気象による不祥事はあったが、
経済的悪材料は軽微なものだった。メディアではフランス、ギリシャの選挙結果
を嫌気したと説明されているが、選挙結果は3 週間ほど前から報じられていた通
りで、サプライズはまったくなかったと見られる。
実は、4 月までの堅調相場の間に買いを積み上げいた欧米ヘッジファンドが5
月決算を前に整理に動いたのと、それに乗じて弱気筋が悪材料を喧伝して売り叩
いた面が強い。筆者は3 月時点での9500 円以上への上げは行き過ぎの感が強
く、4-6 月の上昇分を先取りしてしまった公算があると見ていた。その後の軟
調な展開はこれまでに指摘していた通りである。
筆者は中期的に財政緊縮に伴う米国株価の軟調を予想しているため、日本株に
対しても力強い上昇は見込んでいない。それでも、日本企業は円高デフレ圧力が
一巡し、適正なマージンを確保できる状況が整備されているため、業績に見合っ
た株価水準の引き戻しはあって当然だと思っている。
5 月11 日終値で計算した日経225 銘柄全体の時価総額は162 兆円、うち決
算未公表の15%に対し株主資本と今期予想純利益を筆者推定で入れ計算したと
ころ、株主資本は146 兆円、純利益は14.3 兆円であり、株価純資産倍率は
0.90 倍、予想PER は11.3 倍に過ぎない。これはどう考えても割安、つまり冷
静な判断が出来る状況なら、投資家が放置しておかない安値水準といえる。
そんな安値が実現したのは、欧州の市場がすでに一部パニック的安値まで売り
叩かれており、その波及を恐れたり、リスクポジション圧縮を余儀なくされてい
る投資家からの売りが寄せられ、その需給悪に付け入って投機筋が売り叩きを行
っているからである。ギリシャ株は今週10%強下落、スペイン株価指数はリー
マンショック後の安値を4%下回り94 年以来の安値となった。
本来は急ぐべき原発再稼動を止めている結果、電気代の暴騰や近畿圏における
夏場の電力不足という危険な要因が存在するほかは、当面の日本経済に問題は少
ないように見える。昨年の日本の対欧州輸出額は8 兆円強、輸入は7 兆円と、
GDP の1.5%程度に過ぎない。蒸し返された欧州危機が原因で、日本の屋台骨が
揺らぐとは想像しにくい。

バリュー投資の対象になる大手商社株

日米の株価はしばしば連動性が高いと言われるが、震災以後は株価の位置、チ
ャートの形状が大きく異なっているため、同列に扱うべきではない。トップダウ
ンで国際分散投資を行う機関投資家の立場で考えると、長期的なGDP 成長率が
低くてPER の高い市場は好ましくない。ただ、日本市場の規模は無視できないの
で、景気拡大局面では景気敏感株の一種として買われ、景気不安が高まるとその
反動で真っ先に売られるのである。外国人の売買動向と日本株の値動きが連動す
るのはそういうメカニズムによる。
おそらく1-2 週間後には、米投資雑誌バロンズ(発行しているのはダウ・ジョ
ーンズ社)あたりが日本株の予想PER が先進国中最低レベルに並んだことを話題
にするだろう。先週末の概算では、米SP500 が12.9 倍、独DAX は10.3 倍
だった。日本の11.3 倍は少なくとも長期保有に不適格というほど割高ではなく
なった。PBR は米2.1 倍、独1.65 倍なので、日本の0.90 倍は相当に低い。
米国のPBR が低いのは、余裕資金が出来ると優良企業はすぐ自社株買いを行
い、自己資本を圧縮してしまうからである。少ない株主資本で高い収益を上げる
ことが、株主に対する経営陣の責務という考え方が徹底している。
日本でも国際的企業を中心にそういう考え方が浸透してきた。ただし経済環境
が悪いため、自社株買いはあまり活発化していない。だが今年度は、増配、ある
いは自社株買いがかなり活発化するだろう。手元流動性は潤沢、利益は大幅回復、
M&A 関係を除けば、大きな資金需要を抱えた企業は少数である。
株価が割安な場合、余った手元資金の使い方として最も賢明なのが自社株買い
である。新規投資額に対し10%以上の着実な純利益が見込めれば合格だが、大
手商社株などは益回り(100÷PER)が20%近くもある。例えば三菱商事は株価
1649 円だが、今期EPS は302 円、一株純資産は2132 円、配当は70 円で
ある。益回りで18.3%、配当利回り4.24%である。
以下同様に、伊藤忠はそれぞれ882 円、177 円、863 円、40 円。三井物産
は1110 円、218 円、1447 円、55 円。住友商事は1090 円、162 円、
1351 円、51 円。丸紅は532 円、115 円、490 円、24 円。ざっと、PER5
-6 倍、PBR は0.7-1.1 倍、配当利回りは5%前後である。
筆者は今後円高方向に進むことがあっても一過性、小幅なものに留まると考え
ている。円安方向に向かうのなら、収益が外貨にリンクする企業の業績は確実に
向上する。株式市場全体はもう一段下振れする可能性を残すが、下値は限定的と
考えられる。久々に優良銘柄を安値で買える場面が到来したといえよう。 (了)