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木村喜由のマーケットインサイト 2012年7月号

方向感錯綜、とりあえず吹いたら利益確定を

割安感強いが懸念材料もオンパレード

世界の主要株式市場はほとんどが6月4日に安値を付け、その後ほぼ1か月間
上昇した後、反落場面を迎えている。日経225 の場合、8239 円から9136 円
まで上昇後、11 日現在8797 円まで調整している。相場のリズムからは6 月4
日は中期サイクルの安値と判断され、サイクルが強気であれば安値から8 週間以
上上昇する。しかし弱気、すなわちサイクル終点の安値が起点を下回るケースで
は、5 週以内で上昇が止まるケースが多く、現在は判断が微妙な位置にある。
ユーロに対する懸念はすでに2 年半に及ぶものであり、債券相場や通貨市場で
はすでに過剰なほど織り込まれているというのが筆者の認識である。それは米独
など潜在的に「強い通貨」の債券が期待インフレ率をかなり下回る利回り水準ま
で買われる一方で、財政不安国の債券が大きく売り込まれ、両者のスプレッドが
極端に拡大していることに現れている。
またユーロ維持のためには各国の財政再建が急務との認識から欧州の景気見通
しが悲観的になっているほか、米国も「財政の壁」といわれるGDP の4%に及
ぶ対民間での支払い削減が年末に期限を迎えるが、与野党の合意形成の見通しが
全く立っていないため急失速の懸念がくすぶる。当然、設備投資は手控えられる。
市場心理を重くしているのは、欧州向け輸出が多く世界経済の牽引役と見られ
ていた中国の成長率が予想以上に落ち込みそうな気配であること。世界の製造業
の需要見通し全体が下振れすることになり、原油や鉄鉱石、海運など市況も大き
く低下している。
企業収益自体はそれほど悪いわけではない。特に株価との対比では、日本の予
想PER は12 倍、米国が13 倍程度で、債券との利回り格差は史上まれなほど拡
大、株式の割安感を示唆している。これは債券利回りが異常なほど低いか、猛烈
な大不況の到来を投資家が見込んでいるかのいずれかである。
大体、こういう場合は「真実は中庸にあり」となるものだが、債券の強気相場
は日米中央銀行の金融政策のために異様なほど長期化しており、株価は安いまま、
債券は高値追いを続けている。ただし、全体として企業の実体価値は改善傾向で
あり、長期投資家にとっては有利な買い場を提供していると見てよいだろう。
2012年7月号

選後の米国に急落懸念、夏場に堅調なら利益確定を

少し先のことになるが、筆者は11 月の米大統領選挙は9割方オバマ氏再選と
予想している。ただ、財政の壁に絡む法案では民主党、共和党の主張が大きく乖
離しており選挙後直ちに合意を見ることは絶望的。しかもこの時期に公債発行上
限に達してしまうため、双方が法案と予算執行を人質にして強気で交渉に臨む公
算が強い。これは経済が弱い時期にはパニックの原因になりかねない。
前にも同様の時期に米国債の格下げが話題となって株価が急落したことがあっ
たが、今回は財政の壁という実体的な悪材料が接近しているため、単なる心理的
要因でなく、世界経済に悪影響を及ぼす危険性がかなり高い。
財政再建の問題は、増税や支出削減を長期的・段階的にきちんとスケジュール
を組んで対処していけば、マーケットに大きな打撃を与えることなく消化できる
場合が多かったが、不透明なままでずるずる時間だけ浪費する展開になると、市
場心理は悪化し、ネガティブに反応しやすくなるのは日本の経験から想像できる。
まだ不安心理が台頭するにはかなり間があるし、監視体制が厳格なため、欧州
から突然の金融パニックが生じる恐れは低そうである。逆に、ユーロや欧州債券
にはパニックを見込んだ弱気ポジションが溜まっているため、ポジティブな話題
が飛び出すと逆に予想外の急騰という場面もありえよう。ただし景気見通しまで
改善するほどの好転はありえず、その持続性は疑問だ。
結局、余裕資金が大きく現在の投資ポジションが少ない向きには、長期狙いで
押し目買い、突っ込み買いを推奨したいところだが、すでにリスクを取っている
向きにはあまり強気には勧められない局面だと思う。むしろ夏場は戻り高値更新
があるようなら、徐々に売り上がり、大統領選以後の波乱を回避するのが賢明だ
ろう。誤解を恐れずに言えば、9 月以降の軟調場面は、米国株を中心に空売りの
好機ではないかと思っているぐらいである。
時間を経過するにつれて景気の回復期待は薄れ、むしろ来る不況の厳しさを読
み合う場面が来ると思う。不況慣れした日本、欧州と中国は意外にしぶとく粘る
が、米国は短期的にダメージが大きいのではないか。ただ、投機熱に浮かれ金融
債務を拡大させながらの成長局面より、債務を圧縮しながらの低成長の方が、実
は本当によい銘柄を拾える場面である。儲からないと嘆くより冷静に買い場を見
定める時期と思えばよいと思う。 (了)