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木村喜由のマーケットインサイト 2012年10月号

大統領選挙後に不安大、難問山積で下落リスク

米国の上げはユーフォリア、財政の崖に無防備

目下の最大のイベントは11 月6日の米国大統領選挙である。各種予想を総合
すると、大票田諸州を確保した民主党オバマ氏再選はまず揺るがない。だが議会
は下院が共和党、上院は両者拮抗で、大統領と議会のねじれは解消しない。
民主・共和両党の財政方針は隔絶しており、ブッシュ減税の延長と債務上限引
き上げ問題における選挙後の対立は不可避であり、リーマンショック後以来何度
か繰り返された「綱渡り」つまり行政執行が不能寸前になり株価が急落しないと、
議会が結論をまとめようとしないというパターンが再現される恐れが強い。筆者
は95%そうなると見ている。
NY ダウは5日に07 年10 月以来の高値となる13610 を付けたが、筆者は
ユーフォリアつまり根拠なき楽観主義のなせる業だと見ている。前回FOMC に
おけるQE3(量的緩和策第3 弾)と今後の追加策に対するバーナンキ議長のコメン
トに寄りすがり、大統領選挙前の暗い話を避ける空気が背景にある。
実体は違う。SP500 のEPS は7-9月期減益に転じた模様。アナリスト予想
を集計した来年の予想は115.1 ポイント、13.9%増益だが、やがて100 以下
に低下するだろう。11年4月における今年の予想は110.1 だったが現時点で
は101.0 に減少している。来期予想はいつでも非常に楽観的なのだ。景気失速
を免れた今年でさえこの程度なのだから、大統領がどちらになっても財政緊縮を
控えている来年を楽観的に見るのは間違いだ。
FRB は成長率見通しを提示しているが、それには財政政策の変化は反映されて
おらず、来年も2%台の成長が予想されている。だが8 月議会予算局開示したシ
ナリオでは予定されている減税や社会保障打ち切りにより5370 億ドル、
GDP3-4%の下振れがある。さすがにそれは衝撃が強すぎるため、部分的あるい
は段階的な延長があって最終的には1%強程度まで削減されると見るが、それで
も来年の成長率は1%未満に留まる公算が強い。
むしろ対立の焦点は減税継続よりも債務上限引き上げの方ではないか。つまり
共和党が歳出削減を強硬に主張すると見る。決着がもつれても、大幅な削減が決
まっても、景気に対してはかなりのマイナスになるため、要警戒だ。

中国が尖閣諸島で譲歩する見込みはない

日本政府が国有化を決めて以来、尖閣諸島が大問題になっているが、中国の対
日、国防、資源戦略から考えて、中国が尖閣を日本領として認める意思は皆無で
ある。まして11 月の共産党大会で対外強硬派として知られる習近平氏が国家主
席に就任するというタイミングでは、強硬路線が変わることはない。
尖閣はサンフランシスコ条約や台湾返還時の条約から日本の領有権は明白だ。
沖縄返還の1972 年に一緒に米国統治から日本側に引き渡され、日本の実効支配
化にある。だが、中国は西沙・南沙諸島で強攻策によりベトナムやフィリピンか
ら実効支配を奪った実績がある。中国は日本の実効支配が満50 年となる2022
年になると国際法裁判の事例から日本の領有権が確定すると認識しており、それ
までに上陸し自国施設を建設、日本の実効支配を打破したいものと見られる。
中国での全国的反日デモは政府指示によって実行されたが、一部が暴徒化し政
府批判に転化する恐れが出てきたほか、平和国家として世界に印象付ける作戦が
台無しになり、中国からの外国企業撤退が相次いだためその後中止されている。
軍関係以外のほとんどの中国人にとって尖閣諸島は関心外だろう。地理や歴史
的スジから言えば中国より台湾に優先権があり、また中国が自国領とする動きに
出た場合は台湾が激怒(当然米国も)するだろう。中国の尖閣奪取の戦略は実にス
ジの悪いものなのだが、基本方針が軍事中心の時代に作られたもので、海洋資源
やルートの重要性が高まった現在、今更変えられないというところだろう。
今後、中国への外国からの投資は大幅に減り、設備投資も縮小するだろう。生
産年齢人口が来年ピークアウト、総人口も約10 年でピークアウトする。GDP の
45%を設備投資(公共・民間・住宅)でまかなう中国の経済はそもそも持続不可能
であるが、そこからの成長率鈍化は世間がイメージするよりずっと急速であろう。
筆者は今年実質8%成長なら毎年0.5%ずつ低下して、2020 年には4%成長に
なり、その後は0.2%ずつ低下して2030 年に2%成長になると見ている。
中国は減速するが経済規模の拡大はなおも急速である。長期的には日中の経済
交流は一段と拡大・緊密化することは疑いない。とはいえ中国が重点を見誤った
経済運営や軍事戦略を行っていれば、その害は自分自身に及ぶだろう。日本にも
その悪影響が及ぶが、耐え忍び、自分で適切な対策を見つけるまで気長に待って
やるしかない。日本の投資家は、しばらくは逆風の時期として、リスクポジショ
ンを抑制しておくのが賢明だと思う。(了)