820142月

木村喜由のマーケットインサイト 2012年9月号

景気不安高まるも政治が無力、下振れを警戒

景気の足取りがますます鈍化

9月上旬の欧米株式市場は総じて堅調だった。米国は追加金融緩和期待、欧州
はECB が南欧諸国の中期国債を無制限で買い支える方針を打ち出したためだ。
だがアジア株は中国の減速懸念が根強く、安値圏で推移した。
中国は景気下支えのため1兆元の公共投資策を発表、これが足元の反発材料と
なったが、リーマンショック後の4兆元対策と比べるといかにも小粒。名目GDP
は1.6 倍に膨らんでいるため、実質GDP への効果は4 兆元対策当時の15%に
しかならない。一方、先行指標となる輸入額は前年比マイナスに落ち込んだ。中
国は原材料を輸入して国内で加工・製品化して輸出する加工貿易の色彩が強いが、
輸入の急減速は主要輸出先である欧州の景気悪化と、周辺途上国への工場シフト
が原因で、相当に根深い問題を孕んでいる。
米国も鈍化傾向だ。人口増加に並行するサービス産業の雇用増はあるものの、
製造業の雇用は再び減少に転じている。これは先行きの生産減速の前兆だ。
欧州は全体的に財政再建による需要減速が最も厳しくなる時期に突入しつつあ
る。米国も、大統領選の終わる11 月中旬以降は財政再建問題と格闘しなければ
ならない。一方、日本国内も民主、自民両党の党首選が終われば、解散総選挙が
秒読みとなり、重要な政治決定が行えなくなる。総じて、財政は景気に対してネ
ガティブに作用するが政治の対応には期待しにくい状況が続くことになる。
日本の鉱工業生産指数は7 月から失速し、現状も冴えない。エコカー減税が終
了し、復興需要もパッとしない。前年比で円高が止まっているため輸出採算は改
善しているだろうが、鉄鋼や海運など市況産業は中国ショックの打撃が深刻だ。
また世界経済の中期見通しが暗いため、設備投資関連もしばらく低迷を続けよう。
海外のインフラ投資は堅調を維持するため、この関連は辛うじて健闘しよう。
株価水準が下がったため、株式の割安感はあるが、景気のモメンタムが下向き
とあっては、積極的な買いは勧められない。特に6 月上旬の安値から上昇に転じ
た欧米の株価は、そろそろ天井打ちから反落に向かいやすい日柄に差し掛かるた
め、要注意だ。4-6 カ月の中期サイクルと1 年以上のサイクルの安値が重なる
タイミングとなる11-12 月に向けては、下落圧力が高まる公算が強い。

日米は選挙一色、QE3 の効果は期待すべきでない

本稿執筆後、米FOMC の結果が公表される。何らかの追加金融緩和はあると
見られるが、QE3(量的緩和第三弾)は見送られる公算が強いと見ている。景気の
足取りの重さは事実だが、現時点で失速を裏付けるデータはなく、むしろ大統領
選後に予想される財政問題での紛糾時に市場が下落したときのために切り札とし
て温存しておくのが得策だからだ。
また、バーナンキ氏の積極姿勢とは裏腹に、多くの識者がQE3 の効果はQE1、
2 よりずっと小さく、逆にインフレ等の副作用が強まるため、実施に反対を唱え
ていることも無視できない。すでに米10 年国債利回りは1.7%付近と限界まで
下がっており、QE3 があっても0.1-0.15%下がる程度で、株価や実体経済への
インパクトは軽微である。
これは多くの市場関係者も承知しており、QE3 実施で上がったところは当面の
材料出尽くしと見て利益確定を待ち構えているだろう。その場合、オバマ大統領
再選となると共和党優勢の議会との財政運営協調が困難になり、市場が動揺して
もFRB には手段が残っていない、という恐るべき事態が生じるかもしれない。
大統領選挙はオバマ氏の再選がほぼ確実と見ている。党大会後、ロムニー候補
との差は拡大した。直近の英国の公認賭け屋の配当率は、概ねオバマ1.35 倍、
ロムニー3 倍弱となっている。これはオバマ氏への信認が厚いというより、共和
党の正副大統領候補が共和党保守派以外の有権者から嫌われる要素が多分にある
ためだ。ただ、長期的にはオバマ氏の再選は世界的に望ましい結果と考えている
が、今後10 年間は財政再建に向けた努力が不可欠となるため、世界景気には重
石となるだろう。ロムニー氏の当選は一時的な上昇と急失速が濃厚と見ている。
日本では民主党首は野田氏で確定的だが関心が集中するのは次期首相となる公
算が強い自民党総裁選の方だろう。5 候補のうち実質的には石原、安倍、石破の
三つ巴、決選投票では憲法・防衛問題で一致する安倍・石破が協力するから、そ
の他が一致団結しない限り次期首相は両氏のいずれかになる公算が強いと見てい
る。久々に正面から国民に利害の選択を訴える硬派、タカ派の首相となるだろう。
維新の会は次期総選挙で50 議席以上獲得し連立政権に参加するだろう。新政
権では年金財政問題、官僚機構改革には前進が期待でき、政治の透明性の改善か
らマインドが戻り内需の刺激にはなるかもしれない。一方、尖閣・竹島問題では
強気に出るため対中、対韓関係の悪化は覚悟すべきかもしれない。 (了)