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木村喜由のマーケットインサイト 2012年11月号

米議会の混乱必至、しばらく雨模様

難問山積の年末を迎える、いったん突っ込む場面を想定

大統領選挙は想定どおりオバマ氏の再選となったが、先送りされてきた財政の
崖と債務上限引き上げ問題という最大のハードルにはほとんど手が付けられてい
ない。年末で打ち切りとなるはずの約5500 億ドルの減税・財政支援は、市場コ
ンセンサスは半分以上が部分延長されるということだが、それでも15 兆ドルの
GDP に対し1.5-2.0%の削減は避けられない。来年の米GDP は2%弱の成長予
想となっているが、それで済むのか大いに疑問だ。
社会的バランスと財政健全化を両にらみした民主党と、あくまで小さな政府と
弱肉強食の理念を掲げる共和党の対立がこれほど顕著になったことは記憶にない。
景気軟着陸を目指すのは民主党だが、債務上限引き上げを人質にとって共和党は
抵抗を続けるだろう。最終的に何らかの妥協案が成立するにしても、両党が面子
をかけて論争を繰り返すことは確実であり、年末ギリギリになるまで着地しない
であろう。昨年7 月と同様、格付け会社は米国債の格下げを再び検討し、事態の
停滞に耐え切れなくなった投資家が嫌気売りを出すのはほぼ確実だろう。
米財政の具体策がまとまるまで、企業も市場もリスクを少しずつ圧縮するだろ
う。設備投資計画は先送りされ、来年のキャピタルゲイン増税を控えて株式は利
益確定売りが先行しよう。今年最大の時価総額増大銘柄だったアップルは、9 月
の高値700 ドル台から大統領選挙明けに540 ドル割れとなった。
ここ例年、11 月は株価が下落しているが、それはヘッジファンドに年末に換
金を求める投資家の解約申し出期限が45 日前となっているからだ。今年はヘッ
ジファンドの運用成績が冴えないうえ、先行き不透明感から解約は多そうで、11
月下旬まで世界の市場は換金売り圧力が優勢となろう。例年は11 月に入ってか
ら下落となった場合、換金売りが一巡する感謝祭(11 月第4 木曜)付近で底入れ、
反発に向かうケースが多かったが、今年の場合、財政の崖とキャピタルゲイン増
税が重石になるため、楽観的に見ることはできない。
ただし、悪材料を十分織り込むほどの急落があった場合は、短期逆張り方針で
買いに出るのも一案である。政治が原因で市場が急落した場合、それが議会の妥
協を後押しして解決が早まる場合が多いからだ。

現在は景気後退局面、底入れの兆しが見えるまで安全運転で

中国の問題も頭が痛い。中国は戦略的に尖閣諸島を日本から奪う計画を持ち、
同島周辺に艦船を常駐させている。胡錦濤氏が野田首相に警告したにも拘らず直
ちに尖閣国有化を実施したことは中国人を激怒させた。土地私有の概念がない中
国人にとって、「国有化」とは領土を外国から分捕るという意味に取れてしまう。
新指導者となる習近平氏は94 年以降反日教育の義務化を徹底させた江沢民氏
に近い反日派で、早期の関係改善は期待できそうもない。中国にとって外資導入
は大きな成長の源泉であり、その最大投資家だった日本の手控えは中国にとって
も大きな痛手のはずだが、経済が悪化するほど、民衆の不満の目をそらすため日
本を悪者にしてガス抜きをする習慣が中国側にある。共倒れとなる愚策だが、本
当に経済が行き詰るまで愚策を続けると思われる。
この辰年は竜頭蛇尾の1 年だった。年初、12 年度の日本は先進国中トップク
ラスの経済成長率が期待されたが、その後の欧州景気悪化、尖閣問題などを受け
て輸出が落ち込み、鉱工業生産も低下している。政府の景気判断も下向きに転じ、
3 月をピークとしてすでに景気後退局面に入っているとの見方が強まっている。
企業業績を見てもそれが鮮明であり、日経225 銘柄の純利益予想は5 月14
兆7199 億円から8 月13 兆8495 億円、直近11 兆8163 億円となっている
が、筆者は今後さらに1-2 兆円の下方修正があると見ている。11 月9 日時点
の225 時価総額は160 兆1135 億円なので、予想PER は13.55 倍だが、仮
に1.5 兆円の減少を見込むとPER は15.52 倍となる。
PER の水準は魅力的とはいえないものの、PBR は0.90 倍、PCFR(キャッシ
ュフローレシオ)は5.63 倍に過ぎないため、ここからの下落余地は限定的であろ
う。一時は海外情勢などを嫌気して突っ込む場面があっても、自律反発があるも
のと思われる。当面の情勢には悲観的にならざるを得ないが、安値で投げ出すの
はもったいないほどの低株価になっているものが多い。むしろ極端なバーゲンセ
ールは振り返ると絶好の買い場となっていたというものも少なくあるまい。
中国との関係が悪化した反面、中国とトラブルを抱える周辺のASEAN 諸国と
の関係は緊密になっている。おそらく近く実施される総選挙の後は自民・安倍首
相が率いる連立政権が誕生するだろうが、海外のインフラ投資に日本が関与する
度合いは増えると見られる。重電機器、プラント、機械、商社などにはメリット
が生まれるだろう。(了)