320142月

木村喜由のマーケットインサイト 2013年6月号

ミニバブル崩壊で乱高下、地道に割安株物色を

ヘッジファンドの ヘッジファンドの円安株高誘導が逆回転

基本方針として吹き値売り、買いは突っ込み待ちと言い続けたが、どうやら正
解だったと思う。11 月以来の外国人の株式の買い越し額は 10 兆円、その 6 割
強がヘッジファンドなど短期資金と推定される。彼らは株を買うと同時に円売り
ドル買いのポジションを組んでいたから為替と日経 225 が連動していたのであ
る。その中に、巧妙な策動により株価と為替を吊り上げてきたヘッジファンドが
存在した。その音頭に乗って内外の投資家はバブルの饗宴に参加した。
黒田日銀の政策は、超金融緩和でまず円安と資産バブルを起こし、その勢いで
企業や国民の価格感覚を麻痺させて物価上昇を受け入れて貰うというものである。
まず資産バブル膨張があると読んだ外国人が群がり、株式や不動産が急騰した。
しかし実体経済が弱すぎて物価上昇に行く前に景気に悪影響が出始めた。
今回暴落したのは、合理的な数値的根拠もなく、上がるから買う、買うから上
がるというバブルの部分が吹き飛んだだけのことだ。年初に、今年の高値はアベ
ノミクスが大成功して 14000 円まで、並みの成功なら 12500 円程度と皆言っ
ていたではないか。
12500 円付近ではまあフェアバリューと言ってよい。円安株高で一株純資産
のレベルは高まっており、予想 PER13.5 倍なら、預貯金からのシフトも自社株
買いも期待できるから下値は固く、安心して選別物色を行うことが出来る。
ただし、世間で言われているような下期の成長率加速は期待すべきでない。欧
州はなお低迷、中国が再び失速気味、米国の下期加速説も大いに疑わしい。日本
の場合は消費税引き上げ前の駆け込みでやや需要は高まるだろうがすぐ後にその
反動がやってくる。経済が低空飛行でも収益水準を維持でき、かつ割安な銘柄を
選ぶべきだ。海外に販路を拡大しつつある低 PER 銘柄は山ほどある。
米国では景気が回復して QE(量的緩和策)の段階的削減が近いのではという観測
がしきりだが、多分年内には始まるまい。米国はインフレ率 2%を誘導目標とし
ているが、今は 1%に下がり、ISM 製造業指数は景気分岐点の 50 を割り込んだ。
製造業受注は 1-4 月累計で前年比 0.3%増に過ぎない。シェール革命の恩恵があ
ってもこの程度なのである。QE の出口戦略を語るのは当然だが、実施は先だ。

大荒れ相場は当分続きそう、突っ込みで安値を拾え

株式市場の変動率(ボラティティー)が上がっている。いろいろな測定法がある
が、端的に 225 ミニ先物が 0.5%以上変動した値動きを 1 週間分累計したとこ
ろ、1-4 月は現物価格に対し 20-35%程度だったのが、暴落のあった週が
70%、その後 2 週間は 140-150%となっている。1 週間に 2 万円以上も動い
ているのである。これは前述のヘッジファンドが超高速取引によって大幅な価格
変動を引き起こし、小口の先物投資家のロスカットを誘発させる動きを頻繁に繰
り返していることが原因のようだ。これほど激しく動くと、伝統的な価格理論は
役に立たない。
しかし物は考えようで、安いところで拾いたいと考えている投資家にとっては、
予想以上の安値で買えるチャンスを作ってくれ、上昇場面では想定以上の高値で
売れることもあるということになる。4-5 月は外国人が 4 兆円買い越したが、個
人現物は 2.8 兆円も売り越しており、その後の下落では買い越しに転じている。
株価が下がったため何か損したような気分になっている人もいるだろうが、結果
的に個人投資家の傷は浅く、非常に賢く立ち回ったと言うことができる。
ドル円相場が 95 円まで下がったが今の実力に近いところだと思う。高値
103.74 円は前述のヘッジファンドの策動によるもので、先行きはともかく現時
点の国内景気には有害だった。しかし間もなく円安トレンドに戻るだろう。夏場
以降、広範囲の物価が値上げラッシュになるため、国内に蔓延していたデフレマ
インドは相当に薄れるだろう。物価が上がものだと思うようになれば、円高が自
然な姿と考える人はいなくなる。
貿易赤字国で労働供給に余裕のない日本のような国が、長らく円高物価安とな
っていたのは相当におかしな現象だった。賃金が下がり続けたのが原因だが、周
辺途上国の賃金と比較して賃下げを正当化してきたからだ。介護現場など需要は
多く資格が要るのに低賃金などという馬鹿げた話がまかり通ったのもおかしい。
米国では静かなデフレが進行しているおそれがある。物価をよく観察すべきだ。
これは FRB が密かに恐れている現象である。日本がそうだったが、デフレ国の通
貨はしばらく上がりやすい。金融緩和も効かなくなる。為替が財政健全度のガチ
ンコ勝負になれば、すでに財政が手遅れになっている日本の通貨が、超金融緩和
政策により一段と安くなるのは当然のことだと思う。
(了)