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木村喜由のマーケットインサイト 2013年10月号

予断許せぬ海外情勢がまだ続く

企業業績順調も、海外勢のリスクオフ懸念残る

前回号以降、TOPIX は米国のテーパリング(市場からの債券買付け額の段階的
削減)開始見送りなどの材料に反応し 1223 と7月高値 1232 に迫る場面があっ
たが、8 日現在 1150 と前回号執筆時以下の水準にあり「五輪決定で期待感が盛
り上がるもののやがて海外株価の下落に引きずられる公算が大きく、上昇時はポ
ジションを軽くすべきだ」とした予想は大筋で正しかったと思う。基本認識は今
も前回と変わっていない。
原則として市場のコンセンサスを裏切らない方針を維持してきた FEB が、あえ
てテーパリングを見送った理由は、米国の景気の足取りがまだ不確かなうえ、国
内では予算案の未決、連邦債務上限問題の紛糾、海外では中国や中南米などへの
悪影響の波及があった場合に混乱が懸念されることなどがあったようだ。
前回懸念すべきとした要因はそのまま残っている。延期されたとはいえテーパ
リングは早晩開始される方向であり、リスク資産の圧縮方向に作用するだろう。
連邦債務問題は 10 月 17 日とされる上限到達に向け進展していない。おそらく
ギリギリまでもつれて最後に共和党が妥協する形で決着すると見ているが、株価
が急落して投資家の不満を議会に表明しない場合、同党のティーパーティー派が
事態を楽観して譲歩を拒否し、形式上のデフォルトが実現する危険性がある。そ
の後市場が崩れてから渋々妥協が成立、やがて市場が戻すという展開だ。
少し前まで米国株価が予想以上に堅調だった理由は、ISM 指数などが示すよう
に景況感が上向いたのに、一時 3%近くまで上がった 10 年債利回りが 2.6%台
に下がったことである。しかし今後両方ともプラス方向に働くことは考えにくい。
大きくネガティブに作用する風には見えないものの、四半期ごとの予想 EPS はほ
ぼ毎週低下し続けている。やがてこれにテーパリング効果が追い討ちとなる。
日本側は消費税率引き上げと景気対策が決まり、当面は企業業績の改善を背景
にポジティブな流れが続くだろう。しかしドル円相場が 97 円を割り込んでくる
ようだと、株価と為替相場の連動性、および海外収益の目減りなどから、下振れ
リスクが強くなる。もし不測の悪材料で海外勢のリスクオフが強まった場合、
13000 円に再び接近する公算を見ておく必要がある。

FRB 議長人事も波乱要因に

大きな不透明要因が存在している時に積極的に買いに出る投資家はいないから、
米国財政問題が決着するまでは上昇トレンドを期待すべきではない。むしろ、頑
固なティーパーティー派が妥協に動く際には厳しい株価の下落による有権者から
の非難が必要と思われる。つまり株価が下げるまでは予算案と債務上限引き上げ
が決着しない公算がかなりあるのである。
もっとも、17 日までに債務上限が引き上げられなくても米国財政が本物のデ
フォルトに陥るわけではなく、遠からず引き上げ合意がなされるならこの件につ
いては一件落着となってアク抜け的な反発があるだろう。しかし市場の声を無視
して与野党が突っ張り合いを続けるなら、想像以上の急落に陥る危険性もある。
いずれにしてもすぐに買いで儲かるチャンスは薄そうなので、合意もしくは急落
があるまでは突っ込み買いに絞るべきだろう。
一方、FRB の議長人事も迫っている。9 割方ジャネット・イエレン副議長に落
ち着くと見られるが、緩和に積極的でハト派最右翼と見られる同氏の指名はドル
売り要因と見られるだろう。また別の人が指名されるとこれもサプライズ要因と
なる。少なくとものんびり構えていられる状況ではない。
ドル円も日経 225、TOPIX も 5 月以来の三角保合いパターンをまだ抜け切れ
てず、むしろ 9 月の戻り高値からかなり下げてしまったので下値模索のパターン
になりかかっている。ただし最も弱い動きとなっているドル円が 96 円をはっき
り割り込むと、三角保合いは崩れ、一時急落の動きとなるので注意が必要だ。
ドル円の動きが弱くなった理由は、日米の長期金利差が縮小し、両者の景気判
断の格差も縮まったからである。しかし本格的な景気後退に繋がる悪材料はまだ
現れていない。中国での経済不祥事のような突発的悪材料が出ないうちは、大幅
な円高株安とはならないだろうから、決算を見据えて買い銘柄の絞込みに注力す
るのは悪くない作戦だ。四季報を見れば、非常に割安な毎柄がゴロゴロしている
のがわかるだろう。
前回の繰り返しになるが、このまま株価が大きく上昇するシナリオは実現性が
薄いと思われ、株価が吹いた銘柄は利益確定を優先、新規買いは突っ込み場面待
ち、低 PER や高配当利回りは持続、という基本方針で臨むのが賢明であろう。季
節的に 10-11 月の安値買いはその後儲かるチャンスが大きい。
(了)