320142月

木村喜由のマーケットインサイト 2013年2月号

重要イベントが集中、目先は一時的急落に警戒

為替と株価には目標達成感、G7 ・日銀総裁人事・米・強制支出削減迫 強制支出削減迫る

5 日夕、日銀白川総裁が任期満了前辞任を表明したのに市場は大きく反応し、
翌日の日経 225 はリーマンショック後の高値 2010 年 10 月の 11408 円を超
える 11498 円、TOPIX は大震災直前の高値 976.28 に迫る 974.51 まで上昇
した。ドル円は 94.07 円、ユーロ円は 127.5 円まで上伸した。
起点となる 9-10 月安値からの上昇率は日経 225 が 35.5%、ドル円は
21.5%に達したが、目先天井打ちを示唆している。いずれもエリオット波動の 5
波動(三段上げ)パターンを描き中期的な戻り高値のメドに到達しているうえ、値
動きも短い間隔で激しく上下に動くという典型的な高値波乱の様相を呈している。
したがっての当面の上値下値余地を考えると、利益確定・突っ込み買いの準備を
すべき時期と考えられる。
前述 11408 円は年末時点で最も強気だった向きの今年前半の上値ターゲット。
また、そこから震災後最安値 11 年 11 月安値までの下落幅を昨年 6 月安値に加
算した 11512 円に近い。上値があっても 08 年 3 月安値 11691 円が壁になる。
比較的円安の恩恵を受けにくい TOPIX の戻りメドとしては前述 976.28 はいい
線であり、その上は 10 年 4 月の 1001.77 が抵抗となろう。
ドル円も同様で、07 年高値 124.14 円から 75 円までの下落幅の黄金分割比
率 38.2%戻し 93.77 円に到達、最安値 75 円から昨年 3 月の 84.19 円までの
同上げ幅加算値が 93.38 円。また 10 年 4 月高値は 94.70 円で、わずか 3 か
月間突っ走って到達できるレベルとしてはかなりのところであると断言できる。
この間、財務省ベース外国人の買い越し額は過去 12 週累計で 3 兆 3369 億
円。裁定買い残は昨年末以降急増し、実質 2 兆 5 千億円以上の買い需要があった
ことになる。信用の買い残高も今年になって 5-6000 億円は増えている。これ
らが渾然一体となってバブル期の最盛時さえ上回る猛烈な資金流入があったと推
定されるのである。
しかしここに来てイベントが連続的に訪れる。15 日からの G20 会合、月内の
日銀新総裁人事、2 月末で期限切れとなる米国の財政支出強制削減の猶予期間で
ある。少なくとも市場参加者があれこれ考えざるを得ない重要なものばかりだ。

実はユーロ高・リスクオン、アベノミクス歓迎というのは怪しい

G20 では、円安誘導によるデフレ脱却を政策の中核とするアベノミクスに対す
る評価が行われる。長引くデフレによる日本経済の疲弊は明らかで、現状までの
円高修正は容認されるだろう。だが、一方で欧州からユーロ上昇に対する悲鳴が
上がっている。ユーロは先進国中では最も高金利となり、通貨高が輸出競争力低
下と観光客の減少を招いている。特に経済問題が深刻な南欧諸国ほどその打撃が
大きい。ユーロ高にブレーキが必要という議論は当然である。
市場の動きをよく見れば、最近の世界市場を主導していたのは、円安ではなく
ユーロ高・リスクオンの流れだった。ギリシャへの支援資金送金とスペイン銀行
への資本注入により、当面パニック再燃がなくなったことで、退避していたリス
クマネーが大挙して戻ってきたこと、そこに安倍政権の誕生で、相対的出遅れ感
が強かった日本株に資金が押し寄せたという構図の方が、実体に近いと思われる。
11 月安値から直近高値までの日米独の株価指数ドル換算を比較すると、米
SP500 は 12.2%高、日経 225 も全く同じである。ところが独 DAX は 20.9%
も上がっている。日本の投資家は 3 割以上も株価が上がって久しぶりのウハウハ
状態だが、海外のグローバル投資ファンドにしてみれば、どうということもない
動きなのである。
「海外はアベノミクスを歓迎している」と笑顔で語っている人が多いようだが、
真面目に経済を見つめている内外のエコノミストの見方ははるかに厳しい。来年
度は財政拡大と消費増税前の駆け込み需要で成長率は上がりそうだが、その後 2
年間は増税の影響が出る。円安修正程度で競争力は本当に回復できるのか。貿易
赤字になった国において大幅通貨安のマクロ効果はプラスと言い切れるのか。
安倍政権が叫ぶ「大胆な金融緩和」も、その効果はすでに為替市場では先取り
されており、むしろ今後は小出しの追加緩和の嫌気売り、あるいは実際に物価が
上がった場合の債券利回り上昇警戒などから、スピード調整的な円安修正の場面
を視野に入れておく必要もあろう。
また最近著しく高まっている株価変動率(ボラティリティー)は、投機筋の胸先
三寸で上下に激しく動きやすい状況を示している。結論的には、3 月に向けては
上げが大きかった銘柄の利益確定と、突っ込み局面で内容のよい銘柄の安値を拾
う姿勢が大事ということだろう。
(了)