320142月

木村喜由のマーケットインサイト 2013年4月号

日銀の新政策で、やむなくリスク資産買いに動く

強烈なインパクトの黒田日銀の新政策、好材料先いの感も

4日の黒田総裁になって初めての日銀政策決定会合の発表は、史上に残る強烈
なインパクトをもたらすものだった。盛んな前評判もあって政策メニュー自体に
驚きはなかったが、市場が想定した内容はほぼ網羅され、金額的には最大級、し
かも2年で2倍とか2年で 2%とかの非常に判りやすい行動目標が提示され、特
に当局の派手なメッセージに敏感に反応する外国投資家への影響は強かった。
たまたま直前に発表された短観や米国経済指標が悪い内容だったことから年度
明け早々の株式市場は大きく下落する場面があったが、発表直後から株価は一直
線に上昇を続け、11 日の日経 225 は 13549 円で引けた。2 日の安値 11805
円からは 14.8%の急騰である。
黒田氏自身が「戦力の逐次投入はしない、今回の政策変更においては打てる手
は全部出し尽くした」言明しているように、当面日銀からの政策面での好材料は
出尽くし感が否めない。もちろん今後も国債や ETF 買い付けによるプラス要因は
あるだろうが、ここまでの上昇に比較すればインパクトはわずかである。強いて
いえば、日銀が国債発行の 7 割を買い占めてしまう結果、生保や年金などが運用
難に陥り、外債や株式の比重を高めなければならないことだろうか。
前回発行時は 12300 円付近だったので、突っ込み買い、吹き値売りでという
アドバイスは適切だったと考えるが、これほど極端な動きとなっては言葉もない。
ただし、今回は前回以上に利益確定のトーンを強くして同じ方針を繰り返したい。
というのはドル円が 07 年高値 125 円と 11 年安値 75 円の中間となる 100
円に接近し、常識的に考えても急激な相場変動の影響を実体経済が消化しなけれ
ばならない頃合になっているからだ。確かに円安株高は大手の企業業績にはプラ
スに働く面が強いが、一般個人や中小企業にとっては円安がネガティブに働く。
しかも消費税率引き上げは刻々と迫りつつある。
また強気筋でも、アベノミクスを歓迎して強気を言い続けられるのは参議院選
挙まで、ということで市場の見方は一致していたはず。為替の水準は当時の予想
より高くなっているが、株価水準も並行して大きく上がっており、今になって作
戦変更というのは妙な感じがする。

債券利回り低すぎて資金の行き場がなくなる?

黒田総裁がデフレ脱却に自信を見せるほど、債券市場の矛盾は拡大する。2 年
後の物価 2%が実現するなら、緩和策は徐々に縮小され、長期国債利回りは物価
プラスアルファの水準に落ち着くはずだ。ところが日銀が超長期国債まで均等に
買うといったため、5 日は焦った銀行などが買いに走り、10 年債利回りは一時
0.315%まで下がり、直後に売り物が出て 0.6%以上に急騰する大波乱となった。
売ったのは外国人との説がある。当局がインフレ誘導するといっているのに債
券が買われるというのは妙な話で、買えば買うほど将来損をすることになるので、
どこかで歯車が逆回転するはずだからだ。毎回そうだが、日本の金融機関は目先
の需給やライバルとの競争を強く意識しすぎ、長期的に見るとまったく愚かな意
思決定を行う悪癖がある。まるで人気の仕手株に群がる個人投資家と同じである。
日本の運用機関は運用先が乏しくなったため、外債投資を増やす、その結果大
きく円安に進むという説には一面の真理がある。またソロス氏が黒田日銀に警告
したように、むやみな金融緩和が円安雪崩を引き起こすとの指摘もある。
日本の経常黒字が縮小しているため、大挙国内資金が外に出れば過度の円安と
なってその悪影響は必ず発生する。市場参加者をミスリードすると、大変なトラ
ブルを引き起こしかねない点は注意が必要だ。一方で黒田総裁は安倍内閣に対し
て財政再建への真剣な対応を求めている。財政再建をないがしろにして超金融緩
和に走ると野放図に円安が進むという危険性を承知している模様で、必ずしもイ
ケイケドンドンのバブルを膨張させたいわけではないことも理解しておきたい。
世界のマーケットは、米国が金融緩和策の出口を模索し始めたところに新規に
日銀という強力な緩和の応援団が現れたことで、内外とも盛大なパーティーを延
長することが出来ている。しかし実体経済の指標は米国がややましなぐらいでど
こも冴えない。決算発表シーズンは一つの転機になるかもしれない。米国の相場
格言でも「5 月には株を売ってどこかに行け」と教えている。
水準がセクター間、市場間の動きにバラツキが拡大していることに注目したい。
先物の影響が強いファーストリテイリングや、外国人が強力緩和を先取りして買
い上がった不動産、あるいはノンバンク、自動車大手といったセクターは大活況
で 10 月安値から軒並み 2-4 倍の値上がりとなっているが、中堅以下の銘柄は水
準訂正にとどまっているものが大半で、乗り換えの好機と見る。平成バブル相場
の際も、87 年春に大活況となったセクターはその後頭打ちになっていた。 (了)