木村喜由のマーケットインサイト 2013年5月号
気分はバブル復活、だが 、実体は厳しい
バクチ相場に乗りたい人は期間限定で乗るのもよいが
どうもおかしい。4 月以降の経済指標は悪いものの方が多いのに、株価は世界
的に上がっている。日銀 4 月4日の黒田バズーカ発射以来、世界の投資資金は金
融緩和マネーがリスク資産に向かうという思惑が市場参加者の間に浸透し、自分
の見たいものしか見ない、気に入らない情報には耳をふさぐという気運が広がっ
ているように見える。
論理はシンプルだ。短期金利はゼロに接近、それに比べれば株式の予想 PER は
14-17 倍程度で益回りは 6-7%あるから、金融緩和が続く限り資金は株式にシ
フトする。PER が不変なら株価が堅調を続け、預貯金に置いておくよりずっと有
利だ。短期金利で借りて長期リスク資産のリターンを取りにいく、「キャリート
レード」のチャンスでもある。この論理が通用する限り、うだうだ文句を言うよ
りも実行に移すのが勝ちである。
おかしいと感じるのは、相場は経済の実態に並行して変動すべきであるという
先入観に基づいて判断するからで、現在市場を支配している空気や資金シフトの
規模から考えると、実態からの乖離を拡大させながら上昇する相場の方が正しい
ということができる。
つまりこうだ。マーケットには、バブルもあるし超弱気の売られ過ぎ場面もあ
る。相場が周期的に経済の実力(長期的なトレンド)から乖離するのが当然である
と考えれば、現在はまさに上方乖離の場面なのである。悪材料が出て一本どでか
い大陰線が出現したり、政策転換のシグナルが出て、パーティー終了の鐘が鳴る
までは、とりあえずバブルに乗ってしまえという作戦が成り立つのである。
バブルのパターンにもいろいろあるが、今回のは最も不健全な、世界的な経済
成長の低迷が長期化する、したがって金融緩和は当分終わらないという前提で、
リスク資産に資金が流入するという怠け者の勝利を当て込むパターン。おそらく
このパターンの崩壊は、経済成長や企業収益の予期せぬ下落から始まる。大丈夫
だったはずのものがそうでなくなれば、リスクを背負ってポジションを組んでい
るキャリートレードの資金が真っ先に脱出し、空気が一変するはずだ。
多分それまでにはまだ時間が残っているから、バブルに乗るのも一法である。
一段と拡大した実体経済とマーケットの期待の乖離
欧米株式市場は、5 月 2-3 日に掛けて急騰した。ECB の 0.25%利下げは市
場予想通りだったが、ドラギ総裁が日銀の準備預金に相当する中銀預金金利(現在
ゼロ)を引き下げる可能性を残したため、黒田バズーカへの連想が働き、リスク性
資産が上昇、さらに米国雇用統計が市場予想を上回る改善となったことから、こ
の動きに拍車が掛かった。シカゴの日経 225 先物も 14200 円台に上昇した。
しかし、雇用統計の中身は週間賃金の低下や平均労働時間の短縮など弱いもの
も交じり、同時に発表された米国製造業受注は不調で前月比-4.0%、1-3 月累
計も前年比-0.2%。筆者が最も重視する ISM 製造業指数も 4 月は 50.7 に低下
した。失速を言うには尚早だが、ISM 指数は鉱工業生産や企業収益の先行指数で
あり、市場が言うほど米国景気の先行きが強くないことを暗示している。
欧州が利下げしたのは、ユーロ圏の今年の成長率予想が-0.4%に引き下げられ
たため。しかも主要 5 か国でプラス成長となるのはドイツだけ。来年の予想も+
1.4%から+1.2%に引き下げられた。中国も、統計として最も信頼性の高い電力
消費量が 1-3 月累計で前年比+4.3%に留まっており、監督官庁の年間予想+
9%を大きく下回った状態。官僚の腐敗防止を強化していることが高額消費のブ
レーキとなっていると伝えられる。また中国の官僚らの巨額の不正蓄財マネーの
シフトが最近のリスク性資産上昇にも一役買っているという見方もある。
国内を見ると円安株高で気分が高揚しているため全般に消費が上向き傾向にあ
るが、1-3 月鉱工業生産は前年比-7.9%、輸出数量も-10.8%など数量ベー
スの統計は非常に悪いものが目立つ。その分今後の回復余地があるとも言えるが、
国内はエコカー減税などが終了、消費税引き上げ前の駆け込みに期待するしかな
い状態。輸出も設備投資関連が低調なので、どれだけ持ち直せるか。円安デメリ
ットも拡大しており、実体経済とマーケットの期待の乖離は広がる一方である。
いよいよ市場はチキンゲームの様相が強まっている。市場全体の株価指標では
従来のバブルと比較して割高感は薄いものの、個別業種や銘柄の動きは完全にバ
ブル化しており、鉄火場の雰囲気さえある。一方で、中堅以下の銘柄には底上げ
はしたもののまだ PER が 10 倍以下の割安銘柄が沢山あり、人気面では二極化と
いうことが出来る。投機色の強い動きに乗れる向きはそちらに、乗りたくない向
きは出遅れ銘柄に向けるのが安全だろう。
(了)