木村喜由のマーケットインサイト 2013年8月号
イベント連続で急落に注意、東京五輪決定は好売り場
米国のテーパリング のテーパリング開始が接近、リスクオフが鮮明に
前回執筆以後の相場は、NY ダウが 15500 付近で高止まり、ドル円は 101
円強から一時 96 円割れと円高基調、日経 225 は参院選投票直前に 15000 円
に接近するも結局 13500 円強まで下落と、全般に吹き値売り方針として利益確
定を推奨したのは適切だったと思う。
意外なのは、ISM 指数の大幅改善など米国の指標が予想以上に強かった(最大の
要因は 5 月からのボーイング 787 に対する巨額の発注)のに、ドルが軟調に推移
したことである。米国経済は筆者の想定よりもかなり強い動きであり、9 月の
FOMC では QE3(第 3 次量的緩和)の段階的縮小、通称テーパリング開始のはき
わめて濃厚になったとみられる。すでに米 10 年債利回りは 5 月初めの 1.6%強
から 1%以上も上昇し、日米長期金利差は 1%強から 2%弱に拡大している。そ
の分だけ円安方向への圧力が強まっているはずだ。
テーパリングは今後 1-2 年掛けて資金供給を絞るという意味で、今後段階的
に米長期債の需給は悪化、金利の上昇傾向を示唆する。一方、日銀は物価が+
2%で安定するまで緩和を続けると明言しているので、金融当局の姿勢の違いか
ら円安方向は動くまい。にも拘わらずドル円がそれに逆行する動きになっている
のは、最近ヘッジファンドおよびそれに追随する短期トレーダーが、動きの大き
な日本株先物とドル円相場に投資機会を見出し、一段とトレンド追随型の売買を
活発化させているためである。またリスクオフの動きを反映して公算もある。
基本的にドル高=株高、ドル安=株安であり、4 月以降は意図的に動きをオー
バーシュートさせて資金力の乏しい参加者のロスカットを導き、有利に反対売買
しようとするヘッジファンドの動きが顕著である。つまり相場は素直に経済動向
を反映しているのでなく、むしろそれを裏切る動きを演出して、理解の出来ない
動きに困惑した投資家の狼狽を誘っていると見たほうが、実態に近い。
したがってよほど投資価値に信頼の持てる銘柄以外は、吹き値売り、突っ込み
買いの方針を貫くべきであり、今後のテーパリング開始を見込むならそれに伴う
リスクオフの動きによる投機筋の一段の売り攻勢を警戒すべきことになる。そし
て米国株がいよいよ調整に入りそうな動きとなっている。
米国株、4年サイクルの天井打ちなら 25%下落の公算も
筆者は 7 月が米国市場にとって重要な転機になると見ていたが、NY ダウは 8
月 2 日 15658 ドルまで小幅続伸、その後小反落している。09 年 3 月を起点と
した上昇トレンドは継続中であり、すでに 53 か月に及んでいる。1920 年以降、
NY ダウの 4 年サイクル 23 回を調べたところ、起点からの上昇が 4 年を超えた
のは今回が 4 回目(今回を除く平均は 34 か月)。うち 2 回は 49 か月(天井は 46
年 5 月、61 年 11 月、その後前者は 5 か月で 24.8%、後者は 7 か月で 29.2%
下落)、もう一つは 87 年のブラックマンデーに先立つ87年8月高値までの 60
か月で、この時はその後 2 か月で 40.9%下落となっている。
経験則に従えば、今回米国株が下落トレンドに向かうなら、比較的短期間で
25%以上の下落率になる可能性があるということになる。常識的に考えても、上
昇率、期間とも通常のサイクルの平均を大きく超えた上昇の後には厳しい調整が
待っている可能性が高いと見るべきであり、今回はそれを満たしているので、筆
者は世間のコンセンサスを承知の上で、厳重警戒を主張している。
米国株の急落は、下落開始時の経済環境から予測することは非常に困難である。
強気相場はオーバーシュートすることがしばしばあり、その際には株価上昇など
の資産効果により経済は順調に推移するから、この時点で経済の悪化を予測する
声はほとんどない。これは 2007 年 7 月にサブプライム問題の深刻さが認識さ
れた当時でも同じで、米国株はいったん下落した後 10 月に新高値を更新した。
現在、米国の投資家は complacent=自己満足した、悦に入っている心理状態
にあり、下落に対するガードが下がっている。その証拠に楽観悲観のバロメータ
ーである VIX 指数は株価が高値となった 8 月 2 日に 3 月以来の 11%台に低下し
た。だが先週末 13.4%に上昇した。これが 20%に接近するとき、米国株は急落
を開始しているはずである。
9 月上旬、日本にとっては待望の東京五輪招致が実現する可能性が 90%以上
あると見るが、それを好感した上げ場面は手持ち株を売却するチャンスであろう。
バーナンキ議長の後任人事は 9 月下旬にも発表される。特に緩和効果に否定的な
サマーズ氏が選ばれると市場がショックを起こし、グリーンスパン氏が 87 年 8
月の就任後ほどなく、大暴落に見舞われたような事態に直面しそうな気もする。
いずれにせよ8-9月は急落が多い時期でもあり、当面は無理をせずリスク回避
がよい。(了)