木村輝久「きらめき」 2013年6月号
第5回アフリカ会議の成果に期待する
今月1日から3日にかけて、第5回アフリカ開発会議が横浜で開催され、アフリカ54カ
国のうち51カ国が参加した。このうち大統領や首相など首脳級の参加国は39カ国に及び、
過去4回とは様相が一変した。我が国に対するアフリカ諸国の期待が如何に大きくなって
いるかが判る。北半球と南半球、同じ東半球とはいえ経度差120度、東シナ海、南シナ海、
さらにインド洋によって隔てられるアフリカ諸国は遠い。筆者は数年前、南アフリカ通貨
ランド建ての投資信託を購入したことがきっかけで、南アフリカの経済情勢に関心を持つ
ようになったが、貧困、飢餓、暴動、テロ、大量殺戮、人質事件などでマスコミが取り上
げる国以外は、国名も位置も不案内のまま、さして不自由もなく過ごしてきた。しかし、
今回の参加国が51 カ国と聞き驚きを隠せなかった。会議の状況が詳しく報道されたこの
機会に、新聞記事を参照しながら、我が国の今後の対応について考えてみたい。
1993 年に発足したアフリカ開発会議、その英字略はTICAD、Tokyo International
Conference on African Developmentの頭文字である。東京での開催が前提の、言わばア
フリカ開発支援の色彩を強く持つ国際会議で、5年毎に開催される。
一方、強引とも言えるアフリカ進出が話題となる中国は、我が国に7 年遅れて2000 年
に、「中国アフリカ協力フォーラム」を立ち上げ、3年毎に中国とアフリカ交互で開催して
いる。これまでの我が国の対アフリカスタンスが、政府開発援助(ODA)を通じて、戦乱や
貧困に苦しむアフリカの人々の救済に重点が置かれていたのに対し、中国の方は巨額の投
資で、資源開発を始め交易などによるアフリカ市場攻略が狙いとされてきた。この5年間
で中国のアフリカへの投資額は6倍に増加、2011年の投資額は、我が国の7倍に達してい
る。我が国は前回のTICADで政府開発援助を2倍に増やしたに過ぎない。2012年の主要各
国の輸出入額を見ると、第1位が中国で輸出780億ドル、輸入670億ドル、続いてフラン
ス、米国、インド、日本の順で、我が国の輸出は140億ドル、輸入170億ドルで輸出入総
額で中国の5分の1、インドの2分の1に過ぎない。
アフリカの人口は現在推定で約10 億人だが2050 年には20 億人を超える。サハラ砂漠
以南地域諸国の経済成長率は、過去10年間平均で年率5.8%、貿易総額は4.3倍になって
いる。従って我が国の今後の課題は、援助だけではなく投資や貿易を早急に推進すること
にある。
安部首相は、会議の冒頭で、「アフリカに必要なものは民間の投資とそれを生かす官民
の連携である」として、○今後5年間に官民合わせて約3.2兆円の支援、○内陸部と沿岸
を繋ぐ幹線道路、鉄道、送電網などインフラ整備の推進、○産業人材3万人の育成、○農
業の産業化支援を表明した。そしてインフラ整備については、会議の中で、ケニヤ、モザ
ンビークなど10 カ国を対象とする「戦略的マスタープラン」を提案、主要都市の都市計
画、交通、電力網などの整備に関する基本計画策定をJAICA(国際協力機構)に請負わせる
こととした。我が国は過去に、フィリピン、インドネシアなどでインフラ整備の計画作り
に参画した実績があり、実現すれば日本企業の受注活動に大きく寄与すると考えられる。
進出企業にとって安価な労働コストは魅力だが、電力コストが高いため、現状では生産コ
ストを比較すると中国よりも高い国が多く、アフリカの製造業の泣き所になっていること
から、電力事情が良くなれば、先進国からの製造業進出が本格化することは間違いない。
さらに20カ国で国境の通関システムを刷新し、物流の円滑化を図る計画もある。
中国に対抗するためには我が国が得意とする分野への重点投資が有効であるとして打
ち出された人材育成。具体的には、日本企業が進出している25 カ国を対象に職業教育の
ための人材育成センターを設立する他、1000 人の若者を留学生として日本企業が受入れ、
進出企業の将来の幹部人材を育成する「安倍イニシャティブ」なるものも提案されている。
農産物の付加価値を高めるための支援も重要である。安倍首相は「食べる為の農業から
稼ぐための農業に変えて行きたい」と語っていた。
今回の会議では、アフリカが抱える最大の課題として、雇用の創出を指摘する声が強か
った。アフリカ諸国の多くが資源輸出への依存度が高く、これも一因となって若年層の失
業が高止まりしている。人口が急増する中で雇用問題が解決されなければ、社会不安、政
情不安の温床となる。アフリカ最大の経済規模を持つ南アフリカの経済成長率がこのとこ
ろ急速に鈍化しているのは、人材育成の遅れによる製造業の競争力低下が原因とされる。
有能な人材が増え、若者が職を得て購買力が増せば内需の拡大による好環境が生まれる。
その意味からも我が国の果す役割は大きいと考えられる。3 日間に亘る会議の最後に採択
された「横浜宣言」では、『平和と安定は成長の前提条件。民間部門が成長の原動力。エ
ネルギー、運輸などインフラ整備の促進。農業ビジネスの拡大、加工、貯蓄技術向上によ
る所得増加』など経済関連課題が主要テーマとされている。そして「行動計画」として、
効果的な国家の介入と国営企業への期待、民間部門の大規模インフラ事業への関与促進、
10年間で米生産量倍増、初等中等教育の普及と職業訓練強化、公共保険サービスと医療保
障の増加などが掲げられた。
今回の会議を通じて注目すべきは、具体的な議事以外に、開催地を日本に定めた開発会
議を、日本の“上からの目線”と感じる国が多くなり、次はアフリカに開催地を移す可能
性が出て来たこと、超積極的に進出する中国に対する脅威論が随所に見られたことなどで
ある。 最後に参加主要国トップのコメントをメモしておきたい。
エチオピアのハイレマリアム首相「新参国に比し日本の投資はあるべき姿から程遠い」、
南アフリカのズマ大統領「資源依存から脱却し、成長を持続させねばならない」、ルワン
ダのカガメ大統領「日本はアフリカに進出すべきだ。さもなければアフリカを他国に明け
渡すことになる。アフリカは沢山のチャンスを与える」、ケニアのルト副大統領「地熱な
ど発電分野では多くの日本企業が進出している。強化したいのは石炭火力発電だ。日本の
技術は大変高く、技術移転を進めてほしい」。 (以上)